仮想化技術(OS)について解説

OS

本記事では、OSの仮想化技術について解説します。

仮想化技術とは

OSの仮想化技術とは、物理的なハードウェアの上に複数の仮想的なOSの実行環境を作成することを指します。この技術により、一台の物理マシンの上で独立した複数のOSを同時に稼働させることが可能になります。

OSの仮想化技術は、リソースの効率的な利用、開発・テスト作業の簡素化、システム移行の容易化など、様々な利点を提供します。

仮想化方式の種類

OSの仮想化方式には、主に以下の3種類が存在します。

  • ホスト型
  • ハイパーバイザー型
  • コンテナ型

ホスト型

ホスト型の仮想化方式では、一般的なコンピュータのOS(ホストOS)上で、仮想化ソフトウェアを使用して別のOS(ゲストOS)を実行するための仮想マシンを作成します。

この技術では、ホストOSが物理ハードウェアと直接対話し、仮想化ソフトウェアがホスト上でアプリケーションとして実行されます。

特徴

ホスト型の仮想化方式には、以下のような特徴があります。

  • 導入が容易:ホスト型の仮想化ソフトウェアは、通常のアプリケーションと同様にホストOS上にインストールされるため、導入が比較的容易です。
  • 多種多様なOSに対応:様々なホストOS(Windows、Linux、macOSなど)上で動作し、多種多様なゲストOSをサポートしています。
  • 移植性が高い:作成した仮想マシンは異なるホストOSに転送することができるので、移植性は高いです。
  • 動作速度が遅い:ゲストOSによるハードウェアリソースへのアクセスは、ホストOSを介して間接的に行われます。そのため、ホストOSや他の仮想環境と比較すると、ゲストOSの処理速度が遅くなる傾向にあります。

用途

ホスト型の仮想化方式は、以下のような用途で使用されます。

  • アプリケーションの開発・テスト:異なるOSや環境でアプリケーションの開発・テストが必要な場合、ホスト型仮想環境を用いて、同一の物理マシン上で複数の開発・テスト環境を簡単に構築することができます。これにより、異なるプラットフォーム間でアプリケーションの互換性や動作を効率的に検証することが可能になります。
  • レガシーシステムの維持:古いソフトウェアやOSを稼働させる必要がある企業や機関では、ホスト型仮想環境を活用してレガシーシステムを維持することができます。これにより、新しいハードウェア上でも古いシステムやアプリケーションを安全に実行することが可能になります。
  • 教育とトレーニング:教育機関やトレーニングプログラムでは、受講者に様々なソフトウェアやシステムを安全に試用させる必要があります。ホスト型仮想環境を使用すれば、個々の学生に独立した学習環境を提供することができ、誤ってシステムにダメージを与えるリスクも軽減されます。
  • セキュリティテスト:セキュリティ専門家や研究者は、マルウェアやウイルスの分析、セキュリティシステムのテストなどを行うために、ホスト型仮想環境を使用することがあります。仮想マシンは隔離された環境を提供するため、主要なシステムを危険に晒すことなく、攻撃シナリオを安全にシミュレートすることができます。

主な仮想化ソフトウェア

ホスト型の仮想化方式の主な仮想化ソフトウェアには、以下のようなものがあります。

名称説明
Oracle VM VirtualBoxOracleによって提供されている、オープンソースの仮想化ソフトウェアです。Windows、macOS、Linuxなど、様々なホストOS上で実行でき、幅広いゲストOSに対応しています。
VMware WorkstationVMware社によって提供されている仮想化ソフトウェアです。Workstation Proは商用利用に適しており、高度な機能を提供します。Workstation Playerは個人用途に無料で提供されており、基本的な仮想マシンの作成と実行が可能です。WindowsとLinuxホストOSに対応しています。
Parallels DesktopmacOS用の仮想化ソフトウェアです。Windowsや他のOSをmacOS内でスムーズに実行できるため、MacユーザーがWindowsアプリケーションやゲームを使用したい場合に便利です。
VMware FusionVMwareからmacOS向けに提供されている仮想化ソフトウェアです。Parallels Desktopと同様に、特にmacOS上で異なるOSを実行したいユーザーに人気があります。

ハイパーバイザー型

ハイパーバイザー型の仮想化方式では、ハイパーバイザーと呼ばれる仮想化ソフトウェアを物理ハードウェア上にインストールし、その上でOSを実行するための仮想マシンを作成します。ハイパーバイザー上では、複数の異なるOS(仮想マシン)を同時に実行することが可能です。

厳密には、ハイパーバイザーには、ベアメタル型ホスト型の2種類が存在します。
ホスト型は、先ほど説明したホスト型仮想化方式を指します。
そのため、本章ではベアメタル型のハイパーバイザーについて解説します。

特徴

ハイパーバイザー型仮想化方式には、以下のような特徴があります。

  • 処理速度が速い:ハイパーバイザーは、物理ハードウェアに直接インストールされるため、仮想マシンはハードウェアリソースへの直接的なアクセスを行うことができます。そのため、ホスト型仮想化方式と比較すると、処理速度は速いです。
  • 多数の仮想マシンを実行できる:大規模なデータセンターやクラウド環境に適しており、多数の仮想マシンを効率的に実行できます。
  • 導入コストが高い:専用ハードウェアや仮想化ソフトウェアのライセンス料が必要な場合が多く、導入コストが高くなりがちです。
  • 設定や管理が複雑:専門的な知識が必要で、設定や管理が複雑になることがあります。

用途

ハイパーバイザー型仮想化方式は、以下のような用途で使用されます。

  • クラウドプラットフォーム:クラウドプロバイダーはインフラを仮想化して、ユーザーに仮想マシン、ストレージ、ネットワークなどのリソースを提供します。ハイパーバイザーを使用することで、物理ハードウェアのリソースを複数の顧客やプロジェクト間で分割し、柔軟に割り当てることができます。
  • 災害復旧:ハイパーバイザーを使用することで、仮想マシンをバックアップし、異なる場所に迅速に復元することが可能です。これにより、BCP (Business Continuity Plan) の一環として、重要なアプリケーションの高可用性と災害復旧が実現します。
  • 仮想デスクトップ:仮想デスクトップで使用されるOSは、ハイパーバイザー環境で動作していることが一般的です。

主なハイパーバイザー

主なハイパーバイザーには、以下のようなものがあります。

名称説明
VMware vSphereVMware社によって提供されており、エンタープライズレベルの仮想化パッケージです。パッケージには、ESXiと呼ばれるハイパーバイザーが含まれています。
Microsoft Hyper-VMicrosoft社による仮想化ソフトウェアで、Windows Serverの一部として提供されています。Windows環境に密接に統合されており、特にWindowsベースの仮想マシンに対して高いパフォーマンスを提供します。
Citrix XenServerCitrix Systems社によって開発された、オープンソースのハイパーバイザーです。
KVMLinuxカーネルに統合されたオープンソースのハイパーバイザーで、Linuxシステム上で直接実行されます。KVMは、Linux環境での高いパフォーマンスと柔軟性を提供します。

コンテナ型

コンテナ型の仮想化方式では、アプリケーションとその依存関係を含む独立した実行環境を提供します。この実行環境のことをコンテナと呼びます。コンテナはホストOSのカーネルを共有しており、軽量で起動が速く、システムリソースを効率的に利用できます。

コンテナの作成、実行、管理を行うソフトウェアのことをコンテナエンジンと呼びます。

特徴

コンテナ型仮想化方式には、以下のような特徴があります。

  • 軽量:コンテナは、必要なアプリケーション実行環境のみを含むため、従来のVMよりもはるかに軽量です。これにより、起動時間が短縮され、システムリソースの効率的な利用が可能になります。
  • ホストOSを共有:コンテナ型仮想化方式では、すべてのコンテナがホストOSのカーネルを共有します。これは、従来の仮想マシンが各VMごとに独立したOSを持つのとは異なります。また、ホストOSのカーネルを共有しているため、ホストOSのカーネルと同じ種別のカーネルを持つOSのコンテナのみ実行可能です。
  • 独立した環境:コンテナは、名前空間や cgroups などカーネルの機能を利用して隔離されます。これにより、各コンテナは独立したファイルシステム、ネットワークインターフェース、プロセスIDなどを持ち、他のコンテナやホストOSから隔離されます。
  • イメージベース:コンテナはイメージから作成されます。コンテナイメージは、アプリケーションとその実行に必要なすべてのファイルを含む静的なスナップショットです。これらのイメージはコンテナレジストリ1に格納され、必要に応じてダウンロードしてコンテナを起動することができます。
  • 移植性が高い:コンテナイメージにはアプリケーションとその実行環境が含まれているため、異なる環境間での移植性が高まります。
  • 多数のコンテナを実行できる:コンテナは軽量であるため、同じハードウェアリソース上でより多くのコンテナインスタンス2を実行することが可能です。
  • 環境の一貫性:コンテナを使うと、開発、テスト、本番環境を通じて一貫性のある環境を保持することができます。これにより、アプリケーションのデプロイ3が容易になります。

用途

コンテナ型仮想化方式は、以下のような用途で使用されます。

  • マイクロサービスアーキテクチャ:コンテナは、小さく、独立したサービスにアプリケーションを分割するマイクロサービスアーキテクチャの実現に最適です。各マイクロサービスは個別のコンテナ内で実行され、サービス間の独立性を保ちつつ、開発、デプロイ、スケーリングが容易になります。クラウドベースのサービスなどでよく使用されています。
  • CI/CDパイプライン:コンテナは、ソフトウェアのビルド、テスト、リリースプロセスを自動化するCI/CDパイプラインに適しています。コンテナを使用することで、開発から本番環境まで一貫した環境を保つことができ、ソフトウェアのデリバリー速度と品質を向上させることができます。
  • アプリケーションの移行:コンテナは異なる環境間でのアプリケーションの移行を容易にします。古いシステムからクラウドへの移行、または異なるクラウドプロバイダー間の移行を行う際に、コンテナを使用するとアプリケーションを再構築することなく移行が可能です。
  • 負荷分散:コンテナはスケールアウトが容易です。需要が増加すると、自動的に追加のコンテナインスタンスを起動してトラフィックを処理することができます。また、ロードバランサーを使用してトラフィックを複数のコンテナインスタンスに分散させることができます。

主なコンテナエンジン

主なコンテナエンジンには、以下のようなものがあります。

名称説明
Docker Dockerはアプリケーションコンテナエンジンであり、アプリケーションとその依存関係をコンテナとしてパッケージ化して、異なる環境間で一貫した実行を保証します。主に開発、配布、マイクロサービスの実行に使用され、1コンテナ1プロセスのアプローチを推奨します。
LXDLXDはシステムコンテナエンジンで、完全な仮想OSを提供するコンテナを扱います。仮想マシンに似た体験を提供しながらも、コンテナの軽量性を維持し、大規模なデプロイメントやOSレベルのタスクに適しています。Linuxのみで使用できます。

歴史

OSの仮想化技術の歴史
  • 1960年代
    仮想化技術の始まり
  • 1970年代
    仮想化技術の商業的な普及
  • 1980年代
    仮想化技術の一時的衰退
  • 1990年代
    仮想化技術の復活・ホスト型仮想化ソフトウェアの普及
  • 2000年代
    ハイパーバイザー型仮想化ソフトウェアの普及
  • 2010年代
    クラウドコンピューティング・コンテナ型仮想化ソフトウェアの普及

仮想化技術の始まりは、IBMのメインフレームが登場した1960年代に遡ります。IBMのメインフレームシステムである CP-40 CP-67 は、複数の仮想マシンを同時に稼働させることができる、最初の仮想化技術とされています。これにより、リソースの効率的な利用や、異なるOSの同時実行が可能になりました。

1970年代、IBMはVM/37 (Virtual Machine Facility/370) を発表しました。これは、ハードウェアの仮想化をサポートする最初の商業的に成功したシステムで、ユーザーが独自の環境を持つことを可能にしました。

1980年代、PCの台頭とともに、仮想化技術は一般のユーザーからはあまり注目されなくなりました。しかし、特定の分野、特に大規模な計算処理が必要な環境では、仮想化技術が引き続き使用されました。

1990年代後半になると、仮想化技術に対する関心が再び高まりました。これは、より多様なOSやアプリケーションが登場したこと、およびハードウェアコストの削減が背景にあります。VMwareが1999年に最初の商品として、ホスト型の仮想化ソフトウェアである VMware Workstation を発売したことで、x86アーキテクチャ上での仮想化が現実のものとなりました。

2000年代初頭、ハイパーバイザー技術の発展により、仮想化はさらに進化しました。ハイパーバイザーは物理ハードウェアから仮想マシンを分離し、よりセキュアで効率的な仮想化環境を提供します。この時期、MicrosoftのHyper-VXen、そして後にKVM (Kernel-based Virtual Machine) などのハイパーバイザー型の仮想化技術が普及し始めました。

2010年代以降、クラウドコンピューティングの台頭により、仮想化技術はさらに進化しました。AWS (Amazon Web Services), Microsoft Azure, GCP (Google Cloud Platform) などのプラットフォームは、仮想マシンを利用して幅広いクラウドサービスを提供しています。また、Docker などコンテナ型の仮想化ソフトウェアも普及し、より軽量で柔軟な仮想化の形態が提供されるようになりました。

このように、OSの仮想化技術は、半世紀以上にわたって大きく進化し、ITインフラの重要な部分となっています。

最後に

OSの仮想化には様々な方法があります。そのため、目的に応じて適切な仮想化を行うことが重要です。

脚注

  1. コンテナイメージファイルを保管する場所のこと。 ↩︎
  2. コンテナイメージから生成される実行中のコンテナの実体のこと。 ↩︎
  3. アプリケーションを開発環境からテスト、ステージング、本番環境へ移行し、ユーザーが使用できる状態にするプロセスのこと。 ↩︎
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